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バリーキャッスル (1)




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 2009/09/16
ケンマラ・ハウス Kenmara House (1) Home次へ

2009年 6月 12日(金)

 ラスリン島 Rathlin Island へ、どうしても行きたいという思いがつのり、そのフェリー乗り場がある、このバリーキャッスル Ballycastle という町に 2泊して時間待ちすることになった。

 cf. ラスリン島 Rathlin Island





§ 宿探し
 そうと決まれば、この近くに宿を探さなければならない。 港を右に見て坂道を上がっていくと、港町の様相から変わって、閑静な住宅街が現れた。 坂道もこの辺りで終わり、何軒かの B&B の看板を見かけたのだが、さらに先へと進んだ。

 すると、すぐに人家が少なくなり、どうやらこの辺りが町外れのようで、この先はホテルなどありそうにない。 また、あまり遠くでは、車とは言え夕食を摂るにも不便である。

 仕方なく、引き替えして、先ほど見つけていた B&B の中で、白い家がいいと家内がいうので、そこを訪ねることにした。 あとで分ったことだが、かって、実際に "White Lodge" とも、呼ばれていたようである。 門を入ったところに数台置ける駐車スペースがあったから車を停めた。

 通り道から見た目は、普通の庶民の家である。 豪華さはないが瀟洒な風情があった。 B&B とは元来こんなものである。 子供たちが成長して家を出た後、その空いた部屋を旅行者に提供するのである。






白い家
門側
Kenmarahouse2_ballycastle_20090613
B&B Kenmara House
Ballycastle, Northern Irelamd
2009/06/13 Photo by Kohyuh


 門を入ったところに車を置いて、さて、玄関はどこかと見回すが、見えるのは通用口であろう。

 そのまま、右手に続くアプローチを回りこむと、広い芝生の庭が現れた。

 こちらからの眺めは、もはや庶民の家ではないかも知れない。
 cf. 写真(正面)










 玄関は直ぐに見つかった。 ちょうど港の上に位置しているようで、海が見える。 素晴らしく見晴らしがよい。 この庭からの景色は、この辺りでは群を抜いているようだ。 回りには人影もなかった。


 玄関の呼び鈴を押すと、直ぐに人影がガラス越しに見えたので、一歩後ろにさがって待っていた。 そこへ、ドアを開けて現れたのは、ちょっと太り気味だががっしりとした体格の、優しそうなおじさんであった。

 私たちと対面するなり、満面に笑みを浮かべて、旧知の友を迎えるように 「やぁー」 と声をかけてくれた。 私は紋きり口調で、空き部屋はあるかどうか聞いたのである。

 そんなことにはお構いなく、『私はアーニーだ。 アーニーと呼んでくれ。 ところで、お前のファーストネームは?』 と聞いてきたから、『Ikuhiro です』 と応えると、口ごもって発音できないでいた。 そうかも知れない。

 家内が続けて 『Yumi です』 と応えると 『オー、ユミ!』 といって大げさに喜んでいるのである。



 玄関へ招き入れながら 『日本人を泊めるのは初めてだ』 と喜んでくれた。 まだ、泊まるとも何も言っていないのに、ここが朝食をとる部屋などと説明しながら、つづいて階段を上がっていった。

 『今日は、まだ泊り客がいないから好きな部屋を選んでいいよ』 といって、つぎつぎと案内してくれた。 たしか、三部屋しかなかったと思うのだが、最後の一番奥の部屋が大きくて気に入ったのだが、バスルームが別だった。

 その部屋を見せ貰って吃驚した。 寝室と同じほどの大きな部屋で窓も同じように大きくて、さらにバスタブも豪華な作りで、シャワーの設備からトイレまで申し分ないというか、ここを使っていいものかと思うほどのものであった。






由緒あるバスルーム
 アーニーさんは、「この部屋は、かって誰それが泊まったところなんだ ・・・」 とか何とか説明してくれるのだが 「あぁ、よくあるように、どこそこから有名人が来て泊まったことがある」 といって自慢しているんだと思って 『ふん、ふん』 といって聞き流していた。


 確かに、見たこともないような立派なバスルームだが、自慢するにしても、この建物や庭や他の部屋ではなくて、「なぜ、ここなのか?」 という思いもあった。

 会話というものは、ある程度、脈絡が予想できてこそ成り立つものである。 いきなり突飛な方向に向かうと、頭がついていけない。




 すると彼は、「こいつは何も聞いていないな」 とわかったのか、英語はからきし駄目だな、と思ったのだろう ・・・ それでも、読むことは出来るかも知れないと思って、私を壁に掛けてある額縁の前に連れて来たのである。

 その有名人の名が記されているところを指さしながら、また、説明してくれるのであった。 私は、そのとき、何と書いてあるのか読み取れなかったのである。

 というより、その気になれば読める筈であるが、北アイルランドの有名人の名前を読み取っても意味がない、という思いがあって、眺めてはいるが、読むという意識はなかった。

 その有名人が、私の知っている人であれば、話を繋げることも出来るのだが、もし、知らない人であれば、結局、それでおしまいである。 はじめから、読まないのと状況は何も変わらないのだ。


 アーニーさんは、私の無反応ぶりにがっかりしたことだろう。 その有名人とは、あとで分ったことだが、そこらの町の有名人ではなく、私でも知っている、歴史上の有名人だったのである。

 なぜ、このバスルームでなければならなかったのか、あとでわかったことである。









§ ケンマラ・ハウス Kenmara House
正面
Kenmarahouse_ballycastle_20090613
B&B Kenmara House
Ballycastle, Northern Irelamd
2009/06/13 Photo by Kohyuh

【補注】
 向かって右手奥の出窓のある部屋が私たちの寝室で、出窓と出窓の間に見える窓の部屋がバスルームである。 そして、アーニーさんの部屋は左手の出窓のある部屋だ。
 この宿に泊っているのであるから、当然のことながら、このバスルームは何度も使用している。

 その都度、アーニーさんが説明してくれた額縁のことも目に入っていた。 ただ、依然として、それを読んで見ようとは思わなかったのである。


 それが、不思議なことに、その夜、アーニーさんから教えて貰ったレストランで、思いもよらない出逢いが待っていてくれたのである。

 それもアーニーさんとも深い関係があることがわかったのだが ・・・ その話は、次回に回すことにする。








 このことがあって、出逢いとは不思議なものだという思いがつのり、無意識に封印してきた、例のバスルームの由来話が気になり始めたのである。










§ 今あなたがいる部屋
 夜も遅かったが、一風呂浴びようと思って例のバスルームに入った。 使うのが気が引けるほど、広くて設備も立派である。 例え、五ツ星ホテルでも、これほどのものは滅多にないだろう。



 寝室と同じ広さはあるだろうか。 大きな窓からは海が見え、目指すラスリン島が見えるのである。 そう言えば、双眼鏡も置いてあった。

 私たちの寝室からも同じようにラスリン島も見えるので、小用には何度も入っていたのだが、わざわざ双眼鏡を使うことはなく、むしろ、不思議に思っていたのである。 ましてや、あの額縁のことは、目には入っても、読んでみようという気は起こらなかった。



 読まなくても大体のことはわかる。 どこの旅館でも表彰状や感謝状や有名人の色紙など、目立つところに立てかけてあるものだ。 私の知っている有名人ともなれば、気も惹かれようが、ここは外国のことでもあり、聞いたこともない名前 (・・・ と思っていた) だったから、なおさら目も向かなかった。






 それが、読んでみようと思う気になったのは、旅への私の思い入れかもしれない。 例え、知らない人であっても、『知らないで済ませていては、いかなる出逢いもない』 という思いである。






Altacarry Head Lighthouse
Rathlinisland_20090612
オルタキャリー岬の灯台 Altacarry Head Lighthouse 遠望
船はラスリン島から帰港するフェリー

・・・ ケンマラ・ハウス Kenmara House の庭から ・・・
2009/06/12 Photo by Kohyuh




 
今あなたがいる部屋

 この家の長い歴史からみれば、今あなたがいる部屋がいつも、このようにバスルームだった分けではありません。 窓から北の方を見てください。 晴れた日にはラスリン島が見えるでしょう。 その北東の突端にオルタキャリー岬の灯台 Altacarry Head Lighthouse, Rathlin Island があります。

 その灯台から、世界で初めて、商業ラジオの電波が発信されたのが 1898年8月25日のことでした。 それを、グリエルモ・マルコーニ Guglielmo Marconi が、この部屋で受信することに成功したのです。

 私たちは、ラジオや衛星通信、レーダー、テレビジョン、電波望遠鏡、電子オーブン、その他諸々、電波関連の発明がなされ、手に入れてきました。 今や、それらは現代人として欠かすことのできないものとなっているでしょう。

 このように私たちが手にしたものすべて、ここから、ささやかな幕開けがなされたのです。 あなたが今、立っているこの部屋で ・・・






 これを読んで、私は言葉を失った。 マルコニーは、理系の人、特に工学を目指す人なら知らない人はいないだろう。 その私が、アーニーさんが案内してくれたとき、何のことやらさっぱりわからないまま、そっけない態度で応対していたのである。





 あらためて窓の外を眺めると、ラスリン島の島影が黒く海に浮かんでいた。 そして、その右手突端に灯台の明かりが、規則正しく点滅するのがはっきりと見える。

 ちょうどこの窓の真正面である。 マルコニーがラスリン島での実験を思い立ち、それが成功した感激の様子が目に浮かぶのである。 何より、今、私が立っているこの場所に、マルコニーも立っていたという思いで胸がいっぱいになった。

 当時は、もちろん、この部屋はバスルームではなかった。 彼らの実験機材が所狭しと並んでいたことだろう。 世界初という成功を信じて、寝食を忘れて、機器の調整やら準備に没頭していたことだろう。 その光景が目に浮かぶのである。



 それは、特に、思い入れのある絵画や彫刻を目の前にしたとき、その作者が筆を入れ、手でなぞったであろう痕跡を目の前に見ると、時を越えた臨場感と高揚感に浸る思いと同じだ。






Rathlinisland_lighthouse_20090613
オルタキャリー岬の灯台 Altacarry Head Lighthouse 遠望
ケンマラ・ハウス Kenmara House の庭から
2009/06/13 Photo ny Kohyuh




 私はいたたまれず、寝ている家内を起こしに行った。 そして、事の次第を話した後、二人して、長いこと灯台の光を眺めていた。 家内はマルコニーのことをまったく知らなかったが、明日の朝、アーニーさんにこのことを話した方がいいといわれた。

 遅まきながらでも、正直に話した方がいいと思うのだが、どのように切り出したらいいものかと思いをめぐらすばかりで、『そうやね』 ともいえずに黙っていたのである。

 



§ 朝食のとき ・・・
 翌朝、朝食を摂るため、食堂に向かった。 アーニーさんと、お手伝いのおばさんが食事の準備をしていた。 いい匂いが漂っていた。 『お早うございます』 とにこやかに挨拶を交わした。 『それで ・・・ 昨日は何時ごろに帰ってきんだ?』 と聞いてきたから、『12時ごろ』 と応えた。 『それなら、私は夢の中だ ・・・』 といって笑っていたのだが ・・・

 思えば、それから私は風呂に入ったのである。 アーニーさんの部屋は、そのバスルームのとなりであるから、ひょっとして、湯を入れる音など、迷惑をかけたかもしれない。






Irish_breakfast_kenmarahouse
アイリッシュ・ブレックファスト
2009/06/13 Photo by Kohyuh
 朝食の アイリッシュ・ブレックファスト は、これまでのどこよりもよかった気がする。 とくに、白プディングと黒プディングが二つ重ねになったものは初めてであった。

 それに、ポリッジのことも当然のように聞いてくれたのである。 私が好きだというと、そうだろうそうだろうという具合によろこんで作ってくれた。













 食べ終わって、満足して部屋に戻ろうとしたとき、アーニーさんに呼び止められた。 『風呂を使った後は、部屋の窓は開けておいて欲しい。 そうでないと、湿気がこもって部屋のものを傷めるから ・・・』 とやんわり注意された。

 私は即座に 『すみません』 と謝ると同時に、そのことが気がかりでもあったのである。 湿気がこもるのではないかと、そのときも思っていたのである。 ただ、窓をあけるという行動は取らなかった。 バスルームだからという思いがあったのである。


 いずれにしろ、あのバスルームは、アーニーさんが大切にしてきた部屋であることは、昨晩のことで、十分にわかっていたことである。 どうにかして、その思いを説明しようと思い悩んでいたのだが、それを伝えるチャンスを逃してしまった。

 とはいえ、まだ、その機会は十分ある。 何とかして、私の気持ちを伝えなければ ・・・










 続く
ケンマラ・ハウス Kenmara House
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